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田植えへと続く作業

 鍵をひねると同時に響き渡る起動音。一拍おいてから回転数を上げると、すぐさまけたたましい轟音が鳴り響く。壁一枚で閉鎖された空間で、外からの音を塗りつぶすようにラジオの音量を引き上げ、いよいよトラクターが動き出す。

 そう、やっと田んぼでの作業が始まったのだ。


 昨日は水稲の播種作業をしていたというのに、この異様な切り替わりの速さは、やはりこの時期特有のものといえるだろう。これから田植えが開始される二週間強の間に、田起こし、肥料撒き、代掻き、仕上げの四工程を100を優に超える田んぼ一枚一枚に施さなくてはならないというのだから頭が痛くなる。


 しかし、これをこなさなければ米農家の一年は始まったとすら言えないのだ。田植えと収穫、どちらも絶対にしなければならない作業ではあるが、あえて優先順位をつけるのであれば田植えが先になる。

 これは田植えをしなければ収穫ができないという順番の話ではなく、田植えをしなければ稲作を行ったと認められないという根本的な話となる。極端な話をすれば保険とかの生々しい話になるので割愛するが、とにかく田植えというのは一番重要な作業だと理解していただけるとありがたい。


 話は変わり、農家というのは太陽とともに生活している。日の出と日没の時間が長くなればなるほど、作業時間は増えるし、雨が降ればやれる作業は限られるからだ。だからこそ、この時期は天気が良い日を望むというのが常なのであるが、今トラクターの窓を見てみると、見事に水滴が跳ねているのが見える。

 そう、何事も例外というものは存在するのだ。播種をしたということは田植えの日も殆ど決まってくる。しかし、非常に融通の利かない平等主義者である時間というやつは、きっちり二十四時間で日を進めてくるのだ。

 だからこそ、こうして雨の中、太陽を置き去りにして田起こしをする羽目になっているし、彼が定時退社した後でも仕事をしなければならないというのはざらにあるわけである。

 いつもじんわりと私を照らす月の姿も雨雲で確認する事が出来ない。成程。今日が正念場というやつらしい。これ以上天気が悪くなる前に目の前の作業を終わらせなければ。


 田植えが終わるまであと一か月。またこの努力が報われることを祈るばかりだとハンドルを握りなおす。

 こうしていつも通りの一日が過ぎていくのであった。


                                             また次回




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