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冬の始まり


 おかしい。冬の農家というのは普通はやることが無いはずではないのか。そんな事を思っていたのもかなり前のこと。秋が終わり、雪が積もり始め、本格的に冬の景色が広がり始める窓を横目にキーボードを打つ。

 そう。別に北海道の農家だといっても別に冬場が暇という訳では無いのだ。寧ろ人によっては夏とそう変わらないのかもしれない。作物の収支見合わせ、今年の反省、来年への計画、菊芋の加工、エトセトラにセトラと盛りだくさんだ。

 しかし、仕事があるというのは感謝しなければならない事でもある。冬場は別の所で働きに出る農家の人が大勢居る中、同じ職場で安定した働き口があるというのは恵まれているとも言えるだろう。


 人というのは欲深い生き物だ。


 自身が恵まれた環境にいると分かっていながらも、現状に少しの不満があればその重箱の隅を突かずにはいられない。詰まるところ私は子供なのだ。

 本を読んでゲームをしてユーチューブを見るだけで宿題が終わったことにしたいし、プリンにエクレアにショートケーキを食べたら歯磨きをしたことにして欲しい。


 挙げていけば切りが無いな……


 とそんな事を思いながら仕事を進めていると、そろそろ退勤時間が迫ってくる。外から見えていた光景も、まだ6時前だというのに真っ暗で見えない。いや、見えるな部屋の灯りを反射して、チラチラと素早い速度で横切る白い影。なんて事だ。いつの間にか吹雪いてやがる。

 パソコンの電源を切り、タイムカードを手にとって今日の仕事の終わりを告げる。コートを羽織り、玄関のドアを開けると真っ白になった車が出迎えてくれた。


 人というのはままならない生き物だ。


 やりたくないと思いながらも、やらなくてはならないことが隅を探さずともあふれかえってくる。詰まるところ私は大人なのだ。

 真っ白な車の雪を落とさなくてならないし、家の前の除雪をしなければ帰ることも出来ない。勝手にご飯が出てくる訳でも無い。


 こちらもやっぱり挙げていけば切りが無いのである。




                                             また次回

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