なんだか家の芝が青く見える
最近妙に周りがにぎやかだ。
私はごく普通の集合住宅に住んでいるのだが、ここ最近そこの住人に活気があるような気がする。
三年前まで寝たきりだったおじいさんが、今朝乾布摩擦をしているの見かけたし、職に就かず遊んでばかりいる若者が襟元正しいスーツを着て玄関を出ていくのも見かけた。
新たに部屋を契約したがる者は増えたし出ていくものは減る一方で、新たに部屋の増設工事をしようなんて話が耳に飛んでくるくらいである。
私もここ数年自分の住む環境が改善されていることは自覚していたが、その理由にはどうにも見当がつかない。家賃が減ったわけではないし、維持管理費は最近値上げしたばかりだ。ついでに言えば敷金礼金なぞ初めから返す気などないように思える。他と比べて悪いという訳ではないが、良いという訳でも決してない普通の住宅だったはずだ。
ある日一階下の家族の子供が、外で遊んでいるのを見かけたので、この住宅地に対してどう思うかを聞いてみたことがある。
曰く「空気が美味くなった」と子供は言った。
ふむ……、子供らしいと言えばらしいかもしれないが、らしくないと言えばないかもしれない返答だ。
試しにその場で深呼吸をしてみることにする…………うむ、分からない。
次に両親に尋ねてみた。
曰く「景気が良くなった」と言った。「気温が高く感じる」とも。
いまいちよく分からない。
住みやすい環境が仕事の効率にも影響しているのだろうか、そういえば私も仕事へと向かう足取りが軽く、ストレスが少ない気もする。好循環というやつだろうか。
そんな話をしているうちに、建設会社の車が近くに止まる。増設工事の下見であろうか、社用車の側面には「有機JAS」と会社の名前らしき文字が見える。
車から降りた人物たちは、「いよいよですねー」なんて会話が聞こえてくる。
そういえばこの2,3年の間、この車を何度か見かけた覚えがある。もう少し長い名前だったような気がしたが……なんて思っていると、二つ隣の集合住宅に同じような車が止まっていた。
目を凝らすとその車の側面には「有機JAS申請継続中」の名前が見える。なるほど私が前見たのはそっちの車であったか、どうにもここら辺は工事が頻繁に行われているらしい。
ともかく、最近ここの集合住宅が人気なのは、この工事のおかげのようだ。
私は少しだけその理由に納得すると、まだ寒い外から自分の部屋へと戻りストーブの温度を2度上げた。
また次回
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